ORBITRONの製品を見て、特許を調べて、それをもとに似たものを作ろうとしている人は昔からいます。
特許を読めば、ある程度のことは分かります。
この材料を使っているんじゃないか。
こういう構成なんじゃないか。
この理屈なら、近いものが作れるんじゃないか。
そこまではできます。
でも、実際に同じものを作れるかというと、そんなに簡単ではありません。
昔の特許を読んでも、今のORBITRONにはならない
ORBITRONには、過去に取得した特許があります。
ただ、今のORBITRON製品を、その特許に書かれた内容そのままで作っているわけではありません。
原材料も変わっています。材料の組み合わせも変わっています。処理方法も変わっています。製造工程も変わっています。
長く作り続ける中で、製品そのものが進化してきました。
だから昔の特許を読んで、その通り作ったとしても、今のORBITRONにはなりません。
さらに、現在のレシピは公開していません。ネットにも出していません。論文にもしていません。検索すれば出てくるような情報でもありません。
製造工程も同じです。
仮に原材料が全部分かったとしても、どういう順番で作るのか。どこまで処理するのか。どの状態を見て次へ進むのか。何を基準に良し悪しを判断するのか。そこまでは分からない。
製造というのは、材料をそろえれば終わりではありません。
料理と同じです。
同じ材料をそろえても、同じ料理にはならない。温度もある。順番もある。時間もある。手加減もある。そして最後は、人が見て判断している部分があります。
ORBITRONも同じです。
必要な材料なら、海外まで探しに行く
材料を見つけるところから、簡単ではありません。
私の場合、「これが必要なんじゃないか」と思ったら、国内だけで探しているわけではありません。
必要なら海外からでも探します。かなり遠い国から調達することもあります。
しかも、普通に注文すれば誰でも買える材料ばかりではありません。
法人であっても、用途や会社そのものを審査されて、承認が下りなければ購入できない素材もあります。
そこまでして手に入れます。
ただし、苦労して手に入れた材料だからといって、必ず使えるわけではありません。
海外から取り寄せた。高かった。入手するのも大変だった。
それでも、期待した結果が出なければ使いません。
実際、手に入れたけれど結局使わなかった原料はたくさんあります。試したけれど製品にならなかった材料もあります。使わなかった技術もたくさんあります。
試作品まで作って、「これは違うな」で終わったものもあります。
可能性を探るのが、研究開発です
使えなかった、で済めばまだいい方です。
開発の途中では、危険な目に遭ったこともあります。
容器に触れないほど発熱して、煙がもうもうと上がったこともありました。小さな爆発が起きたことも、何度かあります。
普通なら、そこでやめると思います。
「これは危ない。もうやめよう」
そう考えるのが自然です。
でも、研究開発をやっていると、失敗した次の瞬間に別の考えが浮かぶ。
配合の考え方を変えたらどうなるだろう。条件を変えたら、さっきとは違う結果になるんじゃないか。今回の失敗は、逆に何を教えてくれたんだろう。
もちろん、同じ危険をそのまま繰り返すわけではありません。原因を切り分け、安全条件を見直してから次の検証に進みます。
それでも、また試す。
うまくいかなければ、また考える。
可能性を探るのが、研究開発です。
一回のひらめきで完成するわけではない。失敗しないように進めば革新的なものができる、というわけでもない。
失敗して、原因を考えて、条件を変えて、また確かめる。
しぶとく、何度も繰り返す。
その積み重ねの中から、偶然ではなく「再現できる結果」だけを残していく。
ORBITRONは、そういう時間の中から生まれてきました。
製品に入っているのは、成功した情報だけではない
完成した製品だけを見ると、この部分は見えません。
表に出るのは、最後に残った答えだけです。
でも、その後ろでは、
この材料じゃない。
この組み合わせでもない。
これを増やすと違う。
減らしてみる。
順番を変える。
処理方法を変える。
また違う。
またやり直す。
そういうことを何度も繰り返しています。
ORBITRONというのは、最初から答えがあって、それを作った製品ではありません。
たくさんの候補の中から、これは違う、これも違う、これも使えない、と削り続けて、最後に残ったものを、さらに詰めていく。
本当に絞り出すようにして生まれてきた技術です。
そして、ここにはもう一つ重要なことがあります。
ORBITRONの技術には「使っているもの」だけではなく、「使わなかったもの」の情報も大量に含まれています。
何がダメだったのか。何をやったら結果が出なかったのか。どの材料を捨てたのか。どの技術を採用しなかったのか。
この失敗の蓄積にも価値があります。
AIの「蒸留」にたとえると、何が近いのか
この話は、AIの「蒸留」という考え方に少し似ています。
AIでいう蒸留は、強いAIの内部構造を丸ごとコピーすることではありません。
強いAIを先生にして、「この質問にはこう答える」「この条件ならこう判断する」という出力を大量に集めます。
そして、その答え方を別のAIに学ばせる。
つまり、元のAIを作るために何年もかかった研究や失敗、試行錯誤を最初から全部やり直すのではなく、出来上がった結果を教師データとして使って、近い性能を持つものを作ろうとする。
これがAIの蒸留です。
ORBITRONに置き換えるなら、私たちが何年もかけて材料を探し、海外から取り寄せ、審査を通して特殊な素材を入手し、実際に試し、使えなければ捨て、別の組み合わせを考え、製造方法を変え、また試す。
そうやってたどり着いた完成品を見て、「この結果が出るなら、たぶんここが重要なんだろう」と逆算して、近いものを作ろうとする。
発想としては、AIの蒸留に近いところがあります。
ただし、ORBITRONの場合はAIほど簡単ではありません。
AIの蒸留では、先生になるAIに大量の質問を投げて、その答えを何度も観察できます。
一方でORBITRONは、どの原料を使っているか。どの材料を捨てたか。何を試して失敗したか。どの順番で処理しているか。どこで良し悪しを判断しているか。
そういう情報を外に出していません。
しかも、完成品から観察できる「出力」も限られています。
だから、出来上がった製品から逆算することはできます。
でも、私たちが何を試し、何を捨て、なぜ今の形になったのか。そこまでは見えない。
AIの蒸留になぞらえて言えば、先生から取れる教師データが圧倒的に少ない。
だから、似た形までは作れても、同じところまで持っていくのが難しい。
ORBITRONには、理論だけでは説明しきれない開発の入口がある
ORBITRONには、さらに真似しにくい部分があります。
私自身の製品開発のやり方です。
これは自分でも不思議なんですが、「これをやってみたら面白いんじゃないか」と突然思うことがあります。
何かの論文に書いてあったからではありません。理論式から導き出したわけでもない。
材料を見ていたり、別のことを考えている途中で、「あれとこれを組み合わせたらどうなるんだろう」と急に思う。
それで探します。
国内になければ海外まで探す。手に入ったら試す。ダメなら捨てる。また探す。
全部当たるわけではありません。むしろ、使わなかったものの方が多い。
でも、その中に「これは何か違うぞ」というものが出てきます。
そこから工場長と、「これは面白い」「じゃあここを変えてみよう」「もう少しこうしてみよう」と詰めていく。
そうやって製品になります。
ORBITRONの開発には、こういうセレンディピティがかなりあります。
単なる偶然というより、長くやってきた経験の中で、ある瞬間に突然何かがつながる。
そんな感覚です。
これは検索しても出てきません。
そもそも私自身が、思いつく直前まで知らないんですから。
ゲルホーンやゲルマンパワーは、原料の段階から再現が難しい
この話はゲルホーンやゲルマンパワーにも共通しています。
こちらは原料の段階からさらに特殊です。
原料の供給元が、指定したところ以外には原料を出していません。
つまり、「同じ原料を買ってくればいい」という話にならない。
さらに面白いのは、その原料の供給元自身であっても、同じ最終製品を作れるわけではないということです。
原料を作る技術と、最終製品を作る技術は別だからです。
原料の供給元は原料を作れる。
でも、その原料をその先どう処理するのか。何と組み合わせるのか。どういう工程を通すのか。どこまで処理するのか。
そこは知らない。
逆に製造する側だけでも、同じ原料が手に入らなければ作れません。
原料。レシピ。製造工程。
この三つがそろわなければ、同じものにならない。
しかも、それぞれの情報が一か所に集まって公開されているわけではありません。
だからコピーが難しい。
ただし、コピーされにくい技術には弱点もある
これは強みであると同時に、大きな弱みでもあります。
製造者に何かあった場合、その製品は作れなくなる可能性があります。
原料だけ残っていても作れない。
設備だけ残っていても作れない。
昔の特許だけ残っていても作れない。
製造者本人が持っている技術や判断が失われたら、最悪の場合、その製品自体が世の中から消えてしまう。
これは大げさな話ではありません。
日本の製造業では、熟練工の退職や世代交代によって、技能をどう伝えるかが長年の課題になってきました。
新日鉄、現在の日本製鉄のような巨大な製鉄現場でも、熟練技能の継承が重要なテーマとして語られてきました。
製鉄というと、大きな炉に原料を入れて、機械が鉄を作っているように見えます。
でも実際はそんなに単純ではありません。
原料の状態。炉の状態。温度。設備の癖。その日の条件。
数値だけでは判断できない微妙な違いがあります。
何十年も現場を見てきた職人は、「今日は少し違う」と気づく。
そして調整する。
その判断は、すべてマニュアルに書かれているわけではありません。
本人の中にあります。
だから、人がいなくなると、設備はある。原料もある。図面もある。それでも、以前と同じように安定して作れなくなることがある。
私はORBITRONやゲルホーン、ゲルマンパワーも、根っこの部分では同じだと思っています。
技術は、特許だけでは残らない
技術というのは、特許だけではありません。
図面だけでもない。原料だけでもない。設備だけでもない。成功したレシピだけでもない。
何を試したのか。何を捨てたのか。どこで失敗したのか。なぜ今の材料にたどり着いたのか。どう作るのか。最後に誰がどう判断するのか。
そこまで含めて技術です。
だから私は、「特許があるから守られている」とは考えていません。
本当に価値があるのは、現在の材料。現在のレシピ。現在の製造工程。海外を含めた原料調達のルート。失敗した膨大な試行錯誤。長年積み上げてきた判断。現場でしか分からない感覚。そして、それを再現できる人です。
外から見れば、似たものを作ることはできるかもしれない。
特許を読むこともできる。製品を分析することもできる。近い材料を探すこともできる。
でも、私たちがそこへたどり着くまでに通ってきた道までは見えません。
実際、リアクター関係の類似製品をいろいろ購入した方から、「結局ORBITRONに戻ってきた」という話を私は何度も聞いています。
中には、昔のORBITRON製品と比較しても違う、と評価される方もいます。
購入された方にすれば、遠回りです。
もちろん価格がありますから、ORBITRONは高い、まず安いものから試したい、そう考える方がいるのも分かります。
そこは、その人の判断です。
ただ、本音を言えば、最初からORBITRONを選んでもらった方が、結果的には遠回りしないケースもある。
私はそう思っています。
守るために隠す。残すためには伝える
一方で、作る側には別の課題があります。
この技術をどう残すのか。
コピーされないことだけを考えれば、情報を出さない方がいい。
でも、誰にも伝えなければ、作れる人がいなくなった瞬間に終わる。
守るために隠す。
残すためには伝える。
ここは矛盾しています。
だから、これから本当に考えなければいけないのは、技術を守ること。技術を進化させること。そして、技術を次の世代へ残すこと。
この三つだと思っています。
製品は図面だけでは残りません。
特許だけでも残りません。
最後は、人から人へ伝わらなければ残らない。
ORBITRONを長く作ってきて、今はそこを一番強く感じています。
