「言ったはずなのに、動いていない」
「毎回、こちらから確認しないと進まない」
上司からすると、かなり腹が立つ場面です。忙しいときほど、「やる気がない」「能力が足りない」で片づけたくなる。
でも、ここで一度止まった方がいい。
部下が動かない原因は、本人だけにあるとは限りません。指示の中に、判断するための材料が足りていないことがよくあります。
先に直すのは人ではありません。指示の出し方です。それでも動き方が噛み合わないときに、本人の判断傾向や行動スタイルを見ます。順番が逆になると、分析がただの決めつけになります。
「動かない」は、実は4種類ある
同じように見えても、中身は違います。
- 何をすれば完了なのか分かっていない
- 他の仕事との優先順位を決められない
- 自分で決めてよい範囲が分からず、止まっている
- 失敗したときに責められると思い、確認を待っている
ここを混ぜると、「もっと主体的に動いて」と言うだけになります。言われた側は、何を変えればよいのか分かりません。
部下を分析する前に、上司が確認する5項目
1.作業ではなく、完成形を伝えたか
「資料を作っておいて」では足りません。
誰に見せる資料なのか。何を判断してもらうのか。ページ数はどの程度か。どの状態になれば完成なのか。ここまで伝えます。
たとえば、「金曜日の商談で、先方に3案から選んでもらうための比較表を、A4一枚で木曜15時までに作る」。これなら、仕事の終点が見えます。
2.期限だけでなく、着手の優先順位を伝えたか
期限が来週でも、今日から始める仕事があります。逆に、今日中でも30分で終わる仕事もあります。
「いつまでに」に加えて、「いま持っている仕事の中で何番目か」を伝えます。部下が勝手に優先順位を変えたのではなく、上司が順位を渡していない場合があります。
3.任せる範囲と、確認が必要な範囲を分けたか
すべて自分で決めてほしいのか。金額だけ確認してほしいのか。顧客への連絡前に見せてほしいのか。
権限の境目が曖昧だと、慎重な人は止まります。動きの速い人は進めすぎます。どちらも、本人だけの問題ではありません。
4.途中報告の時点を決めたか
「何かあったら相談して」は、上司には便利な言葉です。しかし、部下には「何を何かと判断するのか」が分かりません。
最初の案ができた時点。費用が予定を超えそうな時点。顧客から条件変更が出た時点。報告する場所を先に決めます。
5.本人の言葉で確認したか
「分かりましたか」と聞けば、たいてい「はい」と返ってきます。
代わりに、「最初に何から始めますか」「どこまで自分で決めますか」「いつ一度見せてもらえますか」と聞きます。試すような聞き方ではなく、認識を合わせるためです。
同じ指示でも、受け取りやすい順番は違う
共通の事実は変えません。変えるのは、伝える順番です。
| 行動スタイル | 先に伝えること | 止まりやすい指示 |
|---|---|---|
| クイック | 結論、期限、任せる範囲 | 背景説明が長く、決めてよい範囲が見えない |
| フォロー | 目的、関係者、手順、相談先 | 周囲への影響が分からず、いきなり任される |
| アイディア | 目的、守る条件、自由に考えてよい部分 | 方法を細かく固定され、工夫の余地がない |
| バランス | 判断基準、選択肢、決定期限 | 何を優先して決めるかが曖昧 |
これは、人を四つの箱へ押し込むための表ではありません。同じ人でも、役割や経験、相手、状況によって動き方は変わります。
才能データバンクの全体像と各スタイルの考え方は、才能データバンクとは?性格診断・適性検査との違いで整理しています。
返事の速さだけで、理解度を判断しない
「はい」とすぐ答える人が、すぐ動くとは限りません。反応が薄い人が、理解していないとも限らない。
本人の内側で重視していることと、周囲から見える表面の反応が違う場合があります。詳しくは、本質と表面が違うのはなぜかで説明しています。
大事なのは返事の印象ではなく、次の行動が共有できているかです。
1on1で聞くなら、この5問でいい
- この仕事で、一番迷ったのはどこでしたか
- 指示を受けた時点で、何が足りないと感じましたか
- 自分で決めてよい範囲は、どこまでだと思いましたか
- 途中で相談しにくかった理由はありますか
- 次回、最初に何を伝えれば動きやすいですか
上司が正解を教える時間ではありません。仕事が止まった場所を特定する時間です。
才能データバンクを使う場面
指示を具体的にしても、同じところで行き違いが続く。上司と部下で、判断の速さや報告の感覚が噛み合わない。そういうときに、才能データバンクで双方の行動特性を重ねます。
見るのは、どちらが正しいかではありません。
- 何を先に聞くと理解しやすいか
- どこまで任せると動きやすいか
- どの時点で報告を入れるか
- 注意を伝えるとき、事実と理由をどの順番で話すか
- 上司と部下の間で、何が抜けやすいか
上司と部下一組から確認する場合は、才能データバンク 上司・部下分析|指示・育成・1on1設計をご覧ください。複数人の配置や役割分担まで扱う場合は、組織・チーム構造分析で組織全体を見ます。
分析結果だけで、人事を決めない
これは大事なので、はっきり書きます。
才能データバンクは、採用、解雇、昇進、人事評価を単独で決める道具ではありません。分析結果が同じでも、経験、知識、実績、現在の役割は違います。
第三者の氏名や生年月日を使う場合は、本人の同意が必要です。実際の仕事ぶり、面談での発言、業務記録と合わせて使います。医療上の診断や心理検査、未来を断定する占いでもありません。
よくある質問
部下が動かないのは、能力不足ではないのですか
能力が原因のこともあります。ただし、その判断は、完成形、優先順位、権限、報告時点を明確にした後です。曖昧な指示のまま能力を評価すると、上司側の伝達不足を見落とします。
社員ごとに違う指示を出すと、不公平になりませんか
期限、品質、守るルールは共通です。変えるのは説明の順番や確認方法です。同じゴールへ進むために、伝わる形を変えます。
細かく説明すると、指示待ちになりませんか
手順をすべて固定する必要はありません。目的、完成形、権限の境目だけを明確にし、方法は本人に任せる設計もできます。
分析だけで相性は分かりますか
分析は関係を考える材料の一つです。実際に起きた行き違い、役割、経験、利害関係を外して相性を決めることはできません。
まとめ 人を責める前に、仕事が止まった場所を見る
「言ったのに動かない」で終わらせると、同じことがまた起きます。
完成形は見えていたか。優先順位は伝わっていたか。どこまで決めてよいか。いつ相談するか。本人の言葉で確認したか。
まず、この五つです。
それでも噛み合わない部分が残ったら、判断傾向や行動スタイルを見る。才能は、人を決めつけるためではなく、仕事の渡し方を変えるために使う。その方が、現場で役に立ちます。
この記事の位置づけ
本記事は、職場の指示とコミュニケーションを整理する一般的な考え方です。個人の能力や適性を確定するものではありません。重要な人事判断は、実績、経験、本人との対話、業務上の事実を合わせて行ってください。
執筆:金光利久(株式会社ネクストサイエンス 代表取締役)
アイキャッチ写真:Campaign Creators / Unsplash
